見ず知らずのあの人が髪を切った
朝の通勤時間に、薬師あいロード商店街の入り口に立っている人がいる。
その人は道行く人に、「おはようございます」と丁寧なお辞儀を伴う挨拶をしている。
見ず知らずの人から挨拶を受けるのは、なかなかに心ぐるしい。
(挨拶は返さないけれど、無視している自分が嫌になるからだ)
その人が挨拶の辻立ちをはじめて、ひと月ほどが経った。
ある日、その人の髪が短くなっていることに気がついた。
気が付くと、ただ挨拶をしてくるだけのその人の、顔も名前も、髪型さえも覚えてしまっていた。
なんだか恋の始まりみたいな導入になってしまった。
その人はなぜ挨拶をしているのか
半年後の2023年4月、統一地方選挙が予定されている。
これは、全国の自治体が同時期に首長と議会議員を選挙で決めるというものだ。
(議会の解散や、首長の辞任等により、時期がずれている場合もある。)
中野区は2021年7月に区長選挙を行なったため、今回は区議会議員選挙のみを実施する。
つまり、この時期に中野区内の街頭で挨拶をしている人は、おおむね区議会議員を目指している人ということになる。
ただ挨拶しているだけなら、「立候補するので清き一票を!」とか叫んでた方がつよいだろ!
と思う人もいるだろう。
ところがどすこい、そうもいかない。
その理由は、「選挙運動」と「政治活動」の違いにある。
例えば、区内に張り出されている様々な政治っぽいポスターを見かけるそこのあなた!
最近はおじさんとおばさん(おおむね)が二人で映るものばかりだということに気づいたことと思う。
なんで皆して2ショのポスター作っているのかというと、彼らがニコイチだからではない。
これは、選挙の半年前から立候補予定者が個人で映るポスターの掲示が「選挙活動」として禁止されているためである。
そうは言っても、「政治活動」そのものが禁止されているわけではない。
そこで、各政治活動団体は、立候補予定者と知名度が高い人の2人をポスターに載せて、なるべく多くの方に立候補予定者の顔と名前を見てもらおうとする。
これがいわゆる、二連ポスターである。
実はよ〜く見ると、何かしらの講演会についても記載があったりする。
こうしたレギュレーションをクリアしなければ、この時期にポスターを張り出すことができないのだ。
朝の挨拶もそうだ。
選挙期間中以外は、特定の候補者への投票を勧めるような行為をしてはいけない。
だから、今の時期はなるべく顔と名前を覚えてもらおうと、人が多く通るところで挨拶をするのだ。
では、「選挙活動」をしていい選挙期間はどのくらいあるのかというと、告示日から投票日までの、わずか1週間程度しかない。
彼らは選挙期間に入ったら、「選挙に立候補する○○です。ぜひ投票をよろしくお願いします!」とようやく口にすることができる。
蝉みたいで儚い。
普通に考えて朝から挨拶したくないやん
朝から知らない人に挨拶をする人がいるのは、それが、正攻法だからなのだと思う。
ある時代の人まではそれでよかったと思っている。
でも、朝から道に立って挨拶運動なんて、平成生まれの僕の肌感覚では、罰ゲームでもしたくない。Z世代なんてなおのことだと思う。
(そもそも小さい頃から、知らない人に挨拶をするなと育てられてきた)
だから、若い人向けのもっと何か違う正攻法ができたらいいのになと思う。
でないと、一部の熱意ある若者の旧時代的な政治活動が、逆にその他の若者の政治離れを加速しているように感じる。
先日、中野駅前で演説をしていた人は「本日の最高気温は●℃、最低気温は●℃です。お気をつけて行ってらっしゃい」と話していた。
過去に耳にした街頭演説では、一番役に立った。(それでいいのか!)